『ノケモノノケモノ』キャスト座談会
4人だからこそできた「かたち」
聞き手=石本真樹(ライター)
写真=壺久
会場=Gallery Conceal Shibuya

音尾琢真 × 辻本耕志 × 高橋良輔 × 小林賢太郎

小林作品初参加の音尾琢真さんと高橋良輔さん、おなじみの辻本耕志さんを迎え、2014年5月から7月にかけ、東京を皮切りに全国8カ所をまわった舞台『ノケモノノケモノ』。
小林賢太郎演劇作品としては10作目となる今回、小林さんは、脚本・出演のほか、美術も担当。余すところなくこだわり抜いた、集大成的な作品に仕上がりました。

今回は、DVD発売を記念して、キャストの4人が再集結! 舞台美術に使用された原画に囲まれながら、『ノケモノノケモノ』創作秘話やツアー中のエピソードなど、たっぷりと語っていただきました。

――約1年ぶりにキャストのみなさんに集まっていただきました。

小林 実はですね。この4人はちょくちょく飲んでいるんですよ。
音尾 そうなんです。あまり久しぶりでもないという(笑)。
小林 わりとみんなパッと集まってくるよね(笑)。

――近況は語るまでもないと……(笑)。では、1年経過した今、改めて『ノケモノノケモノ』を振り返っていただければと。

小林 脚本を書き上げた時点で、それぞれの役柄にある程度の完成予想図はあったんです。でも、そのとおりに再現してもらうことが正解ではないですから、僕はやりたい方向性だけを明確に伝えて、それ以外は俳優のみなさんに委ねました。説明不足な演出家だと思われたかもしれないけれど、それは意図的なものだったんです。まずは思うように役柄を組み立ててもらって、軌道修正が必要なときだけ伝えるという方法でつくっていきました。このやり方だったからこそ、『ノケモノノケモノ』は今回のようなかたちになったのかなと。このメンバーだからこそ、委ねられる部分も大きかったですし。

――辻本さんは小林作品の常連ですが、いつもと違うつくり方だと感じましたか?

辻本 賢太郎さんのつくり方は、回を重ねるごとに進化していっていると思います。徐々に今回のようなかたちに変わっていったというか。
小林 そうかもね。最初はもう少し暴君だったかもしれない(笑)。どうやって演劇をつくったらいいのかわからない部分もあって、試しに椅子を蹴ってみるとか……(笑)。
辻本 そうだ! 蹴っている時代がありましたね(笑)。

音尾 そうなの?想像がつかない(笑)。賢太郎さんの作品にはこだわり抜かれた世界観があるので、すごく細かい演出をされるんだろうなと思っていたんです。でも、いざ稽古が始まったら何も言ってくれなくて(笑)。役者の意見を取り入れつつ、譲れないところだけ「原宮さんはそうはしないかもね」と優しく軌道修正してくれました。一箇所だけ、何度やってもわからないシーンがあったんです。僕が演じる原宮という男が、「本当の自分」について自問自答するシーンで、台本には「自分」というせりふが行間を空けて10個ほど書いてあるだけ。ト書きもなかったので、それぞれのせりふで芽生える葛藤を演じ分けるのが本当にむずかしかった。賢太郎さんに「もうちょっとなんだけど……」と言われる日が何日も続きました。
小林 あのシーンは大変だったよね。
音尾 賢太郎さんの「お客さんに自分のことのように感じて、怖がってもらいたい」という意図はわかるんだけど、うまく表現できなくて。「これかもしれない」というかたちが見えてきたのは本番直前のゲネプロでした。あのときの演出家・小林賢太郎は怖かったです(笑)。
小林 最後まで妥協しなかったからこそ、素晴らしいシーンになったと思います。原宮は、高級な服や鞄などの持ち物、携帯電話の中の情報といった、表面的なもので自分を表すのに違和感を覚えて、「内面にある自分」を探していく。説明的なせりふではなくて、「自分」という言葉だけで、「見た目?」「持ち物?」「違うなら一体何なのか?」ということを表現して欲しかったんです。あと、今回は感情の落差をつける構成にしてみたくて、シリアスなシーンのすぐあとに笑いの要素を入れました。問題が何も解決しないまま笑いのシーンが始まるので、お客さんも少し緊張しながら笑っている。そういう流れをつくってみたかったんです。音尾くんにむずかしいことをやらせているという自覚はありましたけど、僕ではできないからやってもらったわけで……(笑)。
音尾 なんとかたどり着けましたかね。
小林 見事に表現されていたし、伝わっていたと思います。稽古中は過去を掘り起こして、「昔こういうことがあったんだけど」と、自分の経験に役柄の心情をあてはめてつくってくれたよね。だからこそお客さんに届く芝居になったのかなと。

音尾 自分と通じるところがあったんでしょうね。わりと過去の経験と結びつけて演じるタイプではあるので、そのやり方を受け入れてもらえたことも大きいです。でも、最初の台本ってすごく短かったですよね。完成したら倍くらいの長さになった(笑)。毎回、新しい展開と新しいせりふが渡されるから、家でも考えないと追いつかなくて、飲みにも行かずにおとなしく帰りましたよ。今思えばかなりスパルタだったね(笑)。
小林 申し訳なかった! 動いてみないとわからないことが多いじゃないですか。稽古場で生まれたエモーションみたいなものが、芝居を有機的なものにすると思うんです。特に今回はその部分を大事にしたかった。
音尾 目の前にある、その場で起きていることを紡いでお客さんに届けているというか、三次元をきちんと作れる素晴らしい演出家だと思いましたよ。
小林 本当は稽古初日までに完璧な台本を仕上げることができればカッコイイんだろうけど……。できないよそんなこと! (笑)稽古が進むと、原宮という役柄がどんな人なのかを、音尾くんは僕より理解してくれて。「原宮だったらどう思う?」と、反対に何度か質問させてもらったこともありました。
音尾 賢太郎さんの現場は、一度しか経験はないけれど、海外の演出家に近い感覚だなと思いました。俳優の意見を尊重してくれる感じがすごく。

――高橋さんは小林作品に初めて参加されて、いかがでしたか?

高橋 僕は今回、こんなお芝居モンスターみたいな大先輩の方々とやらせてもらって、稽古中から結構ビビッて……いや、悩んでいました。舞台で僕だけが浮いて見えてしまったら、お客さんにも賢太郎さんにも申し訳ないので、なんとかついていこうと毎日必死でした。オレンヂ(辻本)さんには稽古が終わったあとによく相談に乗っていただいて。
辻本 串揚げ屋でね。
高橋 出演が決まったときに、賢太郎さんとご飯を食べる機会があったんです。そのときの「終わったときにまたやりたいと思わせてくれよ」という言葉が少しプレッシャーだったんですが、千秋楽のときに「またよろしく。ありがとう」と言ってもらえて。嬉しかったですね。
小林 彼にはそのあとに『小林賢太郎テレビ』にも出てもらいましたから。まあ、最後までヘタクソでしたよ(笑)。でも、この『ノケモノ~』チームには、上手い役者はすでにいるので、上手くなくていいんです。野球でもエースで4番が9人いるチームなんてありえないですよね。みんな、それぞれの守備範囲をしっかりと守ってくれました。

――小林さんがこの4人で作品をつくりたいと思った理由は何ですか?

小林 わりと早い段階で、「主人公は音尾琢真だ」と決めていました。今回の物語は、普通のサラリーマンが「ノケモノ」の世界に迷い込んでいく話だったので、「ノケモノ」と差別化するためには生々しい人間に演じてもらいたかった。「ノケモノ」たちは自由にその世界を生きていきますから、お客さんが感情移入して共感できる"ミスター生人間"の音尾くんの力が必要だったんです。音尾くんがダメだったらこの作品はやめようと思っていたので、引き受けてもらえたときは本当に嬉しかったです。オレンヂくんとは何度も一緒に仕事をしていますから、音尾くんと高橋くんという初めてのメンバーの中で、僕の分身として判断してもらわなきゃいけない場面が多かった。だからこそ、放任主義で作品づくりが出来たのかなと思います。
辻本 そんな、判断なんてできないですよ! (笑)一番多く出させてもらってはいるので、賢太郎さんの目指す方向が少しはわかるようになってきたかなとは思いますけど。
小林 高橋くんに関しては、出演している舞台を観て、失礼ながら、「僕の脚本で動かしたほうが絶対に面白い」と思っていたんです。スキルはまだまだですけど、とにかく僕の脚本で動いて欲しかった。
高橋 『ノケモノ~』に出させてもらってから、仕事する感覚がすごく変わったんです。今、お芝居をすることがとても楽しくて。こういう気持ちになれたのも、大きなチャンスをいただけたからだと思います。賢太郎さんにはものすごく感謝していて……あれ?
小林 いや、聞いてるよ(笑)。ただ、いつもの惹きつけといてつまらないパターンの高橋くんが出かかっているなと。音尾くんが見事なキャッチコピーをつけたんです。
音尾 「惹きつけといてつまらない」っていう。延々と話したあと、最後に「何もないんかい! 」と思わされるパターン。お酒を飲んでいるときにもよく陥っていました(笑)。
高橋 え……! (笑)

――とても長いツアーでしたが、ツアー中のエピソードを教えて下さい。

辻本 やっぱり、おもしろTシャツですかね(笑)。
小林 "なんすか?そのTシャツ選手権"ね(笑)。
辻本 広島で飲みに行った時に賢太郎さんが、「暑いわ、脱ぐわ」と上着を脱いだときに、ライオンがバーンと入った変なTシャツを着ていたんです。僕が「なんすか?そのTシャツ! 」とリアクションしたときから始まった選手権。それから各地で変なTシャツを買ってね。
音尾 さりげなく着ているっていう。僕もツアー中いろいろ買ったけど、最後までパッとしたTシャツを手に入れられなかった(笑)。
小林 でも、みんな途中ですっかり忘れちゃって……。
音尾 誰も着なくなっていても、賢太郎さんだけはずっと着てた(笑)。
小林 変なTシャツがたくさん集まりましたよ。モリゾーとキッコロのTシャツとか、おばちゃんが着ているようなラインストーンが入ったTシャツとかね。でもなんだか愛着が沸いて捨てられない(笑)。ラインストーンのTシャツはスタッフのお母さまに差し上げました。
音尾 広島では僕が宮島に行けなかったから、しゃもじを買ってきてくれたよね。漢字で"御茶夫人"と書いてあるしゃもじ。"御茶夫人=オッティ・オットマン"ってわかりにくいよ! (笑)(オッティ・オットマンとは、音尾琢真がプロデュースする伝説のロックスターの名前)

高橋 僕は福岡と札幌が楽しかった。特に福岡は記憶に残っています。ゴマサバがもう美味しすぎて! 僕、いまだに黒霧島の水割りを見ると、ツアーを思い出して頼んじゃう。黒霧島の水割りがある店では毎回飲んでるんですよ……って、おや、どうしました?
小林 聞いてるから! 大丈夫、続けて。黒霧島と、あとは焼き明太ね(笑)。
高橋 焼き明太と、屋台のみっちゃん。
小林 東京の次が福岡だったんだよね。僕らは前乗りだったけど、音尾くんは仕事があって楽屋に直接現れたんだよね。
音尾 福岡の思い出は少ないなあ……。
高橋 札幌でレンタカーを借りて出かけましたよね。僕はあれが忘れられなくて。
辻本 バフンウニ、食べたなあ。
音尾 野生のキタキツネが3匹いっぺんに歩いているのも見たよね。
小林 親子のキツネ、かわいかった!
辻本 "居眠りしたらビンタ"もありましたね。
小林 『マッサン』で有名になった余市のウイスキー工場に行ったときだよね。ウイスキーの試飲ができるんですけど、僕は何度も来ているから帰りは運転を引き受けて、みんなに「飲んでいいよ」と言ったんです。それで、帰り道に「先輩に運転させといて寝ちゃうなんてことはないよね」と前フリして、誰かが寝たら動画を回してビンタで起こすというルールを決めて札幌に向かったんです。

――まさか、誰か寝ちゃったんですか?

高橋 僕とオレンヂさんが寝ました……。
辻本 やっぱり寝ちゃって……。それを音尾さんがバーンと。もう話すだけで怖くなっちゃう (笑)。
音尾 容赦ないビンタをさせていただきました。

――最後に、DVDを買ってもらう人々にひとことお願いします。

辻本 すこぶる最高な作品が生まれたと思います! 全世界の方々に見ていただけたら創造主としてもありがたいです!
小林 本当にそのコメントでいいの?
辻本 え?じゃあもう一回お願いします……。
小林 また最後に聞くから(笑)。じゃあ、高橋くん。
高橋 さまざまな感情を呼び起こす作品だと思うので、楽しんで見て下さい。
小林 演劇と違ってDVDは何度も見られるから、見るたびにさまざまな感情が湧くかもしれないよね。では、音尾先生。
音尾 やっぱり舞台は生で観るものだと思っているので、個人的な意見としてはDVDはオススメしません。でも、僕は小林賢太郎という人を信頼しているので、きっとこの『ノケモノノケモノ』は、カット割りひとつとってもこだわって編集されていると思います。この作品は小林賢太郎の集大成的な舞台でもあるので、この「新たな小林賢太郎伝説の始まり」を見届けるためにもぜひ買いましょう! (笑)
小林 僕たちはまず、劇場で観てもらうために汗をかきながら舞台を作っているんですよね。その舞台を映像化したDVDは二次媒体ですが、二度と生では観られない舞台が観られる「記録」としての役割と、演劇というカルチャーの裾野を広げる「道標」としての役割を担ってくれていると思う。まずはDVDを観てみて「生で観なくちゃダメだ」と思う人もいるだろうし。DVDを見て演劇や出演している俳優に興味を持ったり、劇場に来てみたいと思ったり、そんなプラスの発想がどんどん生まれれば嬉しいですよね。では、最後にオレンヂくん。
辻本 ……賢太郎さんと同じ気持ちです。(一同、沈黙)あ! もう一回いいですか?
小林 いま、完全なる「ノケモノ」でしたよね(笑)。

■プロフィール

音尾琢真 Takuma Otoo
1976年3月21日生まれ。北海道出身。演劇ユニット「TEAMNACS」メンバー。北海道を中心に活動していたが、2005年からは拠点を全国に移し、舞台、映画、ドラマなどで活躍中。主な作品に、舞台『ORANGE』『真田十勇士』『星の大地に降る涙』などがある。スーパープロデューサーとして伝説のロックスターOtteyOttomanのプロデュースも手がけている。
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辻本耕志 Kouji Tsujimoto
1977年1月14日生まれ。和歌山県出身。お笑いトリオ「フラミンゴ」メンバー。以前はオレンヂという芸名で活動していたが2010年2月からは本名である辻本耕志として、俳優としても活躍中。小林作品の常連で今回の出演は『TAKEOFF』『ロールシャッハ』(初演、再演ともに出演)に続き5度目。『小林賢太郎テレビ』にも出演している。
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高橋良輔 Ryosuke Takahashi
1984年5月14日生まれ。東京都出身。2004年ドラマ『WATERBOYS2』でデビュー。現在は舞台を中心に活動中。主な作品に、ドラマ『超星艦隊セイザーX』、舞台『黒蜥蜴』『theatrical』『ダイヤのA』などがある。
オフィシャルブログはこちら。

小林賢太郎演劇作品
『ノケモノノケモノ』

販売元 ポニーキャニオン

DVD 3,333円(税別)
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Blu-ray 4,286円(税別)
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特別だと思われたくて、人と違うと不安。どっちなんだ。


田舎のバス停でバスを待つサラリーマン。そこで謎の紳士と出会い、気づくとバスの中。たどり着いたのは、世界中の生きものの設計図が存在する異世界の街だった…。ファンタジーとリアルが行き来する壮大な世界のなかで、ひとりの人間の内面がおかしくも生々しくあぶりだされていく。