『 P + 』インタビュー
表現力を試されたライブ
聞き手=石本真樹(ライター)
写真=壺久

横浜、パリ、モナコで上演された『 P 』の凱旋公演として、全国8カ所で上演された『 P + 』。 極力言葉を使わない「様式美」にあふれた作品は、言葉や国境、年齢といったあらゆる壁を自由 に越え、多くの人に笑いを届けました。
公演後、一息ついたタイミングで小林賢太郎さんが語った『 P + 』の記憶。
後半にはひとこと作品解説つきです。

――『 P +』は、言葉の壁を取り払ったことで自由度が増した感じがしました。

 僕は日本語遊びが好きで、まわりからも得意だと捉えられていると思うんです。だから今回、日本語という武器を取り払ったときに、作品が弱くなるのではないかと思われたかもしれません。ですが実際は、言葉を取り払うことによってかえって身軽になって、自由に泳ぎ回れました。

――いつもと作り方は違いましたか?

 どういう種類のおもしろさかというのは感覚的なことなので、コントも演劇も、せりふを書かないところから始めるんです。書いたとしてもメモ程度で、あとはイラストというか図。その作業の後に言葉を肉付けして、コントや演劇の脚本になっていく。だから今回は、すぐに身体表現に移っただけで、特別に作り方を変えてはいないです。ただ、せりふを覚えなくていいのは楽でしたね(笑)。

――たくさんの絵が登場しましたが、すべて小林さんが描いたんですよね。

 もちろん僕が描きましたとも!絵を描くことは得意でしたが、実は今まで、きちんと描くことを避けていたんです。「絵が上手い」ではなくて、まずは「コントがおもしろい」と言われたかったんです。パフォーマンスそのもので、ある程度の価値を表現できたら装飾をしてもいいかなと思っていて。経験を重ねて、人を楽しませることはどういうことかが見えてきたので、きちんと絵を見せることに踏み込んでみました。これからも相容れるやり方を探して行きたいです。

――「小林賢太郎テレビ」をきっかけに劇場に来られた方もいたようですね。

 そうですね。今回、奇妙なアンケートがあったんです。2歳の息子が「賢太郎、賢太郎」と言うのでお友達のことかと思ったら、テレビを指さしながら言う、と。「誰のことだろう?」と思って調べたら、どうやら僕のことらしくて、手が歩いているやつのものまねをしていたみたいなんです。今回はお母様が見に来てくださったんですが、「あなたのことだとわかるまで2年かかりました」と書いてありました(笑)。その子は今4歳だから、2年後、6歳になったときに観に来て欲しいですね。こうやってテレビはもちろん、様々な媒体や口コミで小林賢太郎が奇妙な伝染をしているのは嬉しいです。今回の『 P + 』は、下は6歳から上は80歳までの幅広い年代の方に見ていただけた公演で、国境の壁も年齢の壁も超えられたかなと。本当に表現力を試され たライブでした。やっちゃいけないことはないけれど、でたらめでは通用しない。ルールを自分の中で探していく作業がすごく楽しかった。またいつか海外でやりたいですね。そのときにはまた、日本のお客様も観光がてら来てくれるとうれしいです。

●作品解説

タングラムの挿絵 " 日本検定 "
 おなじみのタングラムパズルを使った作品ですが、「海外でこれをやってきたのね」と思ってもらえる、日本のお客様へのお土産の気分で、一番わかりやすいものを冒頭に持ってきました。ヨーロッパでやったものを、フランス語字幕もそのままでほぼプレーンな状態で演じました。

図書館
 どれだけマイム力で勝負できるかという作品です。サウンドマイムという言葉があるかはわからないのですが、音響さんと二人三脚で作ってきた集大成のようなものをやりたかった。音響さんという透明な共演者が完全に舞台上にいましたね。心の中で何回も「せーの」って言うんですよ。ふたりで。それがどんどん合ってくる。後半はもう、テレパシーというか超能力っぽかったです。「待って!」とか、「ここで呼吸を置いてから行くよ」とか、タイミングをその場で決めても反応してくれる、本当に優秀な音響さんです。

漫画の奴
 「漫画」はもはや世界の共通言語ですよね。フランスの本屋さんの漫画コーナーは「COMIC」ではなくて、「MANGA」と書いてありますから。だからこそわかりやすい、絶対的な「漫画」を分析しました。ポイントは効果線。海外の漫画には効果線がないんです。アートセンスは抜群だけど、静止画なんですよね。日本の漫画は動きの表現がとても豊か。まずはどういう線を引けばぶつかって見えるか、移動しているように見えるか、という具合に手法を並べて、それをすべて使い切るストーリーを考えたんです。これでもたくさんの絵を描きましたね。

ん、あ、え、お
 フランス人と話していたときに、「え?」って聞き返されたんです。それで、「え」は一緒なんだと思ったところから生まれました。僕が手品をやって見せたときも、フランス人が「ん?」と言っていたので、「ん」と「え」、それから、「あ」と「お」も共通言語だなと。あと、この作品でやっと腹話術を披露することができました。いつか役に立つと思って随分前から練習していたんですが、ネタに組み込むタイミングがなかったんです。今回は、声を重ねてリバーブを足すという腹話術を披露しています。以前、うまくやれすぎて、音響効果だと思われちゃったことがあって、このDVD/Blu-rayには自前でやってるのがわかるようにアップで映ってます。

Lines / Diver
 ホワイトボードにマーカーで線をひいていく様子をビデオで撮影して、その線にあわせてパフォーマンスをしているのですが、手触りのある状態で見せたくて、CGではなくアナログな素材だけで作りました。「小林賢太郎テレビ(NHK BSプレミアム)」のヨーロッパ公演を追った回でメイキングが少し放送されたんですが、それを見た方にはアナログだということがわかってもらえたのではないかと思います。

手の奴 東海道
 映像班が頑張ってくれた作品です。僕がリクエストした絶妙なタイミングに全部応えてくれました。スキャンして貼り付けて、スキャンして貼り付けてという作業を二人三脚でずっとやっていたので大変だったけど、すごく楽しかった。カーテンコールをした後のネタだったので、もう『P+』は終わっているんだからという気持ちで、かなり遊んでましたね(笑)。それがお客さんにも伝わったのか、みなさん好き勝手に手拍子をしてくれて、盛り上がりました。