『振り子とチーズケーキ』インタビュー
 一番狭くて、奥行きのある物語
聞き手=石本真樹(ライター)
写真=壺久

理想の自分と現実の自分。そのギャップが大きいほど、人は悩み、立ち止まる。けれども少し勇気を出して一歩踏み出せば、まるで振り子が振れるように、止まっていた時間が動き出す。『振り子とチーズケーキ』、これは、あなたの物語です。

 2013年10月から12月にかけて、全国9カ所で上演された小林賢太郎演劇作品『振り子とチーズケーキ』は、小林賢太郎さんと竹井亮介さんが、一人の人物の、理想の自分と現実の自分を演じた二人芝居。長いツアーを終えた小林さんに、作品について、竹井さんとの共同作業についてなどを語っていただきました。少しだけ小林さんの作品づくりの裏側にも触れています。

――まず『振り子とチーズケーキ』というタイトルからいろいろと想像しました。

 事前にタイトルが働いてくれたという感じはありますね。アンケートにも「どういう意味なのかと思った」というような反応が多かったです。先に内容があって、それにしっくりくるタイトルをつけただけだったんですが、いざ発表したら反響が大きくて、タイトルの新しい機能を発見した気がしました。今回は、物語そのものに力のある作品を作りたかった。映像もなければ、派手な演出もない。出演者も2人しかいない。物語そのものが主役であるかたち。今までの作品の中で一番狭くて、一番奥行きのある作品にしたかったんです。

――二人芝居のようで一人芝居のような試みも興味深かったです。

 登場人物が一人で役者が二人という形で、対話体小説のような舞台をやってみたかったんです。台本がそのまま読み物として成立するような。いつもの脚本ならト書きにして、セリフ以外の表現で成立させていたところも、今回はできるだけセリフにするようにしました。自分ではうまくいったと思っています。

――小林さんと竹井さんが同一人物を演じることで、主人公が想像するもう一人の自分とのギャップがわかりやすかったです。

 竹井さんの役は図書館で働く地味な男で、衣裳はGAPやら無印良品などのシンプルなもの。対する僕は、CathKidstonの生地で作ったド派手な花柄スーツという、見た目の違いもありましたしね(笑)。今回、竹井さんが見事に竹井さん力を爆発させてくれました。二人で一人を演じるという複雑な構成の会話も、ずっと一緒にやってきたから上手くいった部分もあると思います。意思の疎通も早くて、本読みの段階で僕の意図をほとんど汲んでくれていて、長く一緒に作品を作ってきたことを改めて実感しました。竹井さんの表現力と安定感のある芝居のおかげで『振り子とチーズケーキ』はとても厚みのある、僕がイメージしていた以上の作品になりました。

――今回、54ステージとかなりの上演回数でしたね。

 とても長いツアーだったので、「これは終わらないぞ...」という話を竹井さんと何度かしていたので、千秋楽には「これ、終わるんだ!」とびっくりしました(笑)。まだ明日も明後日もツアーが続くんじゃないかと思うような、大変な仕事をさせているなと思っていたので、お礼に大阪で劇団四季の『ライオンキング』をおごってあげました(笑)。

――主人公が思っている理想と現実って、自分では見ないようにしていて、人には見られたくない部分ですよね。小林さんの演劇作品に通じるテーマのようにも感じました。

 多かれ少なかれ、誰にもコンプレックスってあると思うんです。今回は大きくふたつのテーマを描きたくて、それを〝振り子〟と〝チーズケーキ〟で表しました。まず振り子は、人には二面性があるということを表しています。理想と現実の自分がいて、日常では嫌いな自分に支配されている時間が長くても、それはいつか振り子が振れる、つまりプラスに転じるためのパワーを蓄えている期間なんじゃないかなという思考が僕の中にあって。誰だって生きていれば嫌なことはあるけれど、立ち直らなくてはいけない。そういうときの心の形って、振り子みたいなんじゃないかなと。
 チーズケーキは、角度を変えると違って見えるものの象徴として選びました。これ、きっかけは東日本大震災だったんですよ。〝震災〟というひとつの問いかけに対して、あらゆる立場の人たちが様々な意見を持っている。自分と意見が違うとケンカしたりもする。善悪ではなく、立場や見方が違うから意見が違うだけであって、大事なことは違う意見を持った人を責めるのではなく、様々な見え方があるということを理解した上でコミュニケーションを進めていくこと。そうしないと物事は前進しない。これはとても深くて重いテーマだからこそ、笑いながらみんなで考えたいなと思ったんです。
 今回の作品で伝えられた部分もあるとは思いますが、まだまだ今後もこのテーマは書き続けていきたいです。僕がこの仕事を続けている最大の動機が、「笑っている人が好きだから」なんです。笑い声を聞くのが好きだし、笑っている人を見るのが好きだから、人を笑わせる仕事をしている。逆を言えば、怒っている人を見るのは嫌だし、人のケンカなんて聞きたくない。僕の作品を通して、ポジティブなコミュニケーションの大切さを伝えられたらと思っています。

――『振り子とチーズケーキ』が終わってすぐに『小林賢太郎テレビ』、『ノケモノノケモノ』と、休みなく常に作品と向き合っていますね。

 貧乏暇なしとはこのことです(笑)。なんだか作りかけの作品と身体を離すことがすごく不安で。自分でもびっくりするくらいの集中力で書けるときがあるんです。そういうときは乗っている自分を逃したくないから、ごはんも食べずにとにかく作り続ける。でも一方でそうでもない時間も当然あって。作品の前にはいるけど、気が散ってレゴやったり、手品の練習始めちゃったり。でも、それでも机の前にいたほうがいいと思うんです。どんなに筆が進んでいなくても、書きかけの脚本の前で過ごしている以上、心と体の準備は常に行われていて、必ず前進はしているんですよ。3時間台本の前で唸って良いアイデアにたどりつけなくても、3時間1分のところで何かがつながって書けたとするじゃないですか。じゃあ書けなかった3時間が無駄だったかと言えば、そうではない。やっぱり作品の前にいなくちゃいけないんですよね。

――何本か並行してアイデアがある場合、頭の整理はどうしているんですか?

 机を分けるんです。今、抱えている仕事が4つあって、それぞれの仕事で机を分けています。その作品のための景色に変える。実はこれを教えてくれたのはMr,マリックさんなんです。以前、マリックさんに、「どうやっていくつもの仕事を同時にやってるんですか?」と質問したら、「机を変えるんです!」と言われました。僕は同時にいくつもの仕事をするのはあまり得意なほうではなかったので、机を変えるのはいいアイデアだと思ってやってみたんです。移動するとか、見るとか、その作品のための資料がたくさん置いてあるとか、頭の中だけじゃなくアクションを実際に起こして切り替えることが僕には合っているみたいです。

――文字通り〝向き合う〟ということですね。次作の『ノケモノノケモノ』も楽しみにしています。

 今回は小さな劇場ばかりで上演しましたが、次回はいつものサイズの劇場です。『振り子とチーズケーキ』には、「これはあなたの物語です」という裏テーマがあったので、なるべく至近距離で観て欲しかったんですよ。そしたら片桐仁が、「いや~泣いたね~。あれは俺のことだね~」と楽屋に入って来たので、しめしめと思いましたね(笑)。次の作品も観客のパーソナルな部分に触れたいと思っています。ただ『振り子とチーズケーキ』と違うのは、ちっとも小さくないってこと。バカデカイんです、物語のスケールが。反動ですかね。あ、これも振り子か。