小林賢太郎より

『うるう』大阪、千秋楽

 『うるう』大阪公演、ご来場ありがとうございました。うるう年のうるう日、2012年2月29日をもって『うるう』全48公演が終了しました。支えてくれたスタッフの皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、信頼をもってその才能を惜しげもなく発揮してくれた音楽家、徳澤青弦氏に、最大限の感謝を。

『うるう』への思い

 これまで僕は、新しい作品を生み出そうとするとき、知識を蓄えることにどん欲でした。あらゆる資料を取り寄せたり、最高の環境を求めたりしました。「専門家でありたい」という気持ちが原動力だったと思います。

 おととし、2010年12月、僕は岩手県にいました。僕は作りかけの『うるう』に、宮沢賢治作品のような児童文学テイストを感じていました。宮沢賢治から『うるう』をもっと良くする為のヒントを得られそうだ。そう思って彼に会いに行ったのです。彼の食べたものを食べ、歩いた道を歩き、見た景色を見ました。そして、心の中で何度も同じ質問を繰り返しました。「賢治さん、あなたはここで、何を思っていましたか」。

 すると、ある事実に気付いたのです。岩手には、宮沢賢治作品に登場する様々なものがありました。自然、音楽、美しい星空、かつては機関車も走っていました。つまり彼は目の届くところにある素材から、あれほどの素晴らしい世界を創作したのです。自分の置かれた環境の中から、です。

 僕は打ちのめされました。「今までの自分は何だったのだ、よそから欲しがってばかりではないか」。そして、自分の中から掘り起こそうと決めました。僕はなにでできているんだろう。子供のころに出会った、今の僕を形成してきた物事はなんだったろう。そんな導きに逆らう事なく『うるう』を書き進めていきました。結果、僕の人生38年をかけて「これが僕です」と言える作品ができたと思っています。

 劇場に来てくれた皆さん、『うるう』はお楽しみ頂けましたでしょうか。ご来場、本当にありがとうございました。ヨイチ君にまた会えるとしたら、やはり次のうるう年なのでしょうか。それまでには、作家としても演技者としても、もっと成長していたいものです。

 賢治さん、大切な道しるべをありがとう。また会いに行きます。

小林賢太郎

上へ
前へ